四十五 宇土の城主相知候分之事
付 同所城地被為割候事
加藤家断絶之事
一、永承三戊子御堂関白道隆公肥後下向仕置有之、今年宇土ノ城
を築給ふ、元禄十三庚辰年迄年数六百五十三ケ年ニ成る也
一、此城菊池家十一代・伯耆家六代城主と云々、古き書には名和伯
耆守と在之也
一、天正十五丁亥年秀吉公九州へ御下向の時、四月十日宇土の城主
伯耆佐兵衛尉城を明退也
一、同年、伯耆明退候跡へ加藤主計頭清正暫在番有之也、是は領主
ニてハ無之候得共為心得心（心得カ）記シ置也
一、同年、佐々陸奥守肥後国拝領、熊本為城主、併宇土の城も領内
也、此時の城代不相知候、然を無程肥後国被召放佐々に切腹被
仰付候也
一、同年壬五月十五日、小西ぎ宇土の城主に罷成候、慶長五年子年
十月廿三日落城迄小西領主の年数十四年也、又落城より元禄十
三庚辰年迄年数百四ケ年に也
一、右落城已後小西領分・御預地共に廿六万五千石、清正へ従家康
公被下先知都合五十四万石、内肥後国の内十二郡高五十一万九千余石、豊後国の内直入・大分・海部三郡の内二万余
石太守也 依之宇土も清正の領地と成り、宇土の縄張等清正の心
に不相応の所有之之由にて、毎歳方々普請有之後は丈夫に罷成候、
い後隠居所ニ可被致との取沙汰なり、慶長十六年辛亥年六月廿四
日清正五十一歳死去迄十二ケ年、右ノ通清正宇土被領候、清正
死去の年嫡子忠広十四歳也、
一、清正遠行の翌同十七壬子年、忠広代社宇土の城を割給ふ、城の
築より地を割に至迄年数五百六十五年に成也、右地を割より元
禄十三庚辰年迄八十九年に成也、有説に云、地を割のぎ、忠広
は未幼少成ぎなれば此方ゟの願にて有之間敷侯、半々家康公
上位成べし、きよ（清）正遠行の翌年のぎなれば肥後計に限たる事か、
古天下一同に一国一揆に可仕旨被仰付の由、今年の事か、追て
可考也、大国ハ枝城共に二ヶ所計ハ在之事也、於肥後ハ熊本・
八代両城残るなり、
御宗（家カ）伝には、大阪落城の翌年元和二丙辰年御国一国一城に被仰
出の由也、又云、慶長十七壬い子年一国一城に成と有之侯ヘハ、
元和二丙辰年ゟは五ヶ年前也、又云、宇土の天守ハ三階にて有
りしを、清正代に熊本の城に被為引に天守と名付被建置侯、今
以其通なり、宇土の城割レ申時分引ケ侯事にてハ無之、宇土の
城落城翌年に熊本今の城を取被立侯節に被為引たると見へたり、
此次に取立侯ぎ記之、可見合也、又云、宇土の城地を割の跡ハ
畑と成といへ共、所の石垣等は不損、又堀形も残たる所も有之、
寛永十四丁丑年中、肥後天草領・肥前嶋原領於南北切支丹一揆
蜂起せり、其節天草ニてハ大矢野の内中村の古城、嶋原領ニて
は原の城の古城、如此城に便り籠城したるに付、従江戸の依御
下知九州筋の古城・石垣等取崩、堀は埋侯て平地に致侯由、其
砌宇土の古城も石垣等取崩、堀は埋申侯由ニ付、其形チ今は相
見へ不申由なり、有説ニ云、熊本今の御城ハ清正肥後半国の時歟初有之、一国拝領巳後成就と云々、右の断ニ侯ヘハ
是ハ虚説か
一、続撰清正記に云、熊本の古城より東に当りて茶磨山と云ふ高き
山有之、慶長六辛亥丑年八月中旬に右の山に鋤初有之城を築給ふ、
今熊本の御城これ也、同八癸（みずのと）卯年迄に至三ヶ年出来のよし、此
節宇土の天守為被引たるとの事也、肥後にての申伝に云、熊本
古城は今の古城也、元亨の比菊池の家老赤星掃部（城脱カ）・越前の守と
て両人有之、其内熊本の城に代々の城越前守筋居城の由、此所
に茶磨山、又祇園山わきに在之、鉄炮の恐有之ニ付清正心に不
応、何方成共可然地を見立度とのぎニて方々被見合侯処に、東
に当り右茶磨山か、北に当りて龍田山、此両所心に応、此内
にてハ何方可然かとの義にて度々両所え諸将召連被罷越の由、龍
田山ヘハ一里の内可在ノ由、其比の沙汰に、古より申伝には
茶磨山は味方の城、龍田山は敵の城と申侯、子細は茶磨山ハ少
高ク、是を城に取立る時は大津宿迄五里の内の高ミなく、是に
敵陳取は敵の城なり、其時押寄討取可然との事故かくと云也、
清正此詞を聞信して心付茶磨山を取立給ふと也、城に調、敵は
即時故不調、然ハ味方に勝歴然也、又云、宇土落城関ヶ原合
戦是同年也、今年ゟ清正大身に成給ふて翌年ゟ城を築給ふと、
右城築の節清正の茶道（頭）担歌をつくね（利カ）申侯、
熊本の石引廻す茶磨山敵寄たりとかとふ城かな
此段清正給い嘉悦にて米三石賜ふとなり、此先キ又云、終ニ点之、左ニ記ス、此処ニ
書入の細注あり、終ニ点々下ニ記ス、
一、慶長五庚子年宇土落城より清正の領内と成り断前に具也、其嫡
子肥後守忠広遺跡無相違拝領、両代ともに肥後の国主たるニ付
宇土ハ領地也、然処ニ
公方家光公御代忠広三十一才然処に不行跡ニ付、寛永九壬申年六月
三日領地被召放羽州庄内へ遠流被為仰付、加藤家断絶、古加藤
家両代肥後のくに守の年数二十三年也、
細川越中守忠利公従豊前肥後へ御国替の事、同越中守綱利公
御代肥後へ御目附衆御下向之事、
同丹波守行孝公八代ゟ宇土へ御所替の事、
一、細川越中守忠利公、豊前一国并豊後の内には都合高三十万石
の大守にて、豊前小倉に御在城にて侯処、加藤家の跡寛永九壬
申十月廿八日於江戸御拝領、十二月十三日熊本御入城也、（其か）豊
後寛永十八辛巳年三月十七日於肥後熊本雖御逝去、御嫡子肥後
守光尚公御跡式無相違御相続也肥後様御名乗三度御改也、初光利、中比光興、後ニ光尚公也、
右御両代共ニ熊本御在城、仍て宇土ハ御領地也、正保三丙戌年
迄御両代御領地の年数十五ヶ年也、右戌ノ年より宇土ハ行孝公
の御領地ト罷成侯ニ付年数積り致置侯、行孝公御代の御事は此
次ニ有之侯、
一、右光尚公慶長二巳丑年十一月廿六日於江戸御逝去、御嫡子綱利
公御跡式無相違御拝領（御七歳）不相替肥後の太守たり、御幼少の
間は江戸ゟ御目附衆御両人宛御下向御勤番ニて、御替合の度毎
ニ御国中御順（巡）見ニて、宇土ハ海道筋の儀故毎度御通ニて、其節
ハ必古城え御越御見物ニて、其比迄ハ宇土町ニ語伝之を覚居侯ル
老人罷在侯ニ付、被召出、則古城ニて直ニ古戦場の咄委細御届
被成侯ニ付 公義（儀）えも相知レたる古城の儀ニて侯也、
一、御本家光尚公御代被得上意、正保三丙戌年細川丹波守行孝公八
代ゟ宇土え御所替三万石行孝公御歳十歳也、従八代宇土道程七里也、
慶長十七壬子年ニ宇土の城割ニて以後領主無之、正保三丙戌年
行孝公御領主ニ被為成侯、右領主中絶の年数三十五ヶ年也、依
之昔ニ引替え万事不如意の儀共也、行孝公御事元禄三庚午年六
月四日雖為御逝去、御嫡子和泉守有孝公御両代不相替宇土御在
所、右戌の年ゟ当元禄十三庚辰年有孝公初て宇土御入部迄奉賀
侯、
右本書の趣を考るに、清正記・続撰清正記・太閤家譜・朝鮮征
伐記・慶長記・福田九郎太夫覚書・廻江久兵衛子孫之覚書、宇
土ニて申伝侯、是等を取集一巻となせるもの也、尤予少々令追
加侯、併百有余年ニ及ひ侯儀ニ侯へは伝記不具侯、外ニ古城
の図壱枚相添置申侯、古伝ニ云、古へ於其処軍の有侯躰を尋求て
是を深味する時ハ後学と成事多し、是古人を師とすると云る是
也、然は宇土居住の士は所の儀ニ侯ヘハ荒々成共存可置儀也、
予右の覚書等数年令所持侯ニ付難捨置、元禄十三庚辰年季秋下
中於西窓菴峯雪子誌の者也、
肥後宇土軍記下終