数日前少々頭を休めようと、目の前の棚にから「蝗日記」という肥後豆本を手に取った。
82×110㎜という小さな本で、104頁ほどだが、中身はなかなか立派な内容である。1976年の発刊、著者は当時九州女学院短大教授の蒲池正紀氏である。
「蝗日記」「夏目漱石と香水」「男性への茶道のすすめ」「身の上相談」「猥談」「政治と文学」「百人一首の富士」「坊津の一夜」などの随筆集である。
それぞれ教授のお人柄が伺える洒脱な文章である。
その中で「政治と文学」はある講演会の記録であろうと思われるが、いわゆる「黒髪小学校事件」の最中の生々しさがにじみ出ている。
いわゆるハンセン病の子弟が生活していた龍田寮の子供たちを、龍田小学校へ通学させるについて反対運動が起き、二年ほどに渡り学校は機能を停止し、反対派は子供を登校させず寺子屋授業を行ったりした。
新入生徒3~4人が遭遇した事件であった。
「政治と文学」を読むと、蒲池先生は自分の子供もこの学校に通って居り、問題の子弟達共仲良く過ごしており、いまだに「うつる」と信じて反対する人たちに激しいヤジを受けながら語り掛けておられる。政治が介入し泥沼化した。
私はこの事件がどのような経過をたどって終息したのか詳しくは承知をしていない。
永い間誤解されてきたハンセン病は、日本においては最近では一人の発症者もいないとされる。
当時幼くして事件の渦中となった方々もそろそろ70代に足を踏み入れられたと思うが、心の傷は癒されたのだろうか。
蒲池先生の一文にふれ、忘却の彼方の古い出来事が思い出され、古い傷にかゆみを覚える心地である。
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■幼いころのおぼろげな記憶 (1)
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